平成28年度 江戸ソバリエ講座 基礎コース 石井絵里子(16033)
今まで31年間、そば農家の娘として生まれ、当たり前に新鮮な十割そばを食べてきました。
約10年前から家業を継ぐことを決めて、各デパートで十割そばの出張試食販売を行い、何万人の方に試食していただき、お蕎麦の本来の味を伝え続けてきました。
そこで経験し、気になったことが5つあります。
1.日本人も外国人もお蕎麦が好きな人が多い
2.しかし、新鮮なお蕎麦の本来の味を知っている人が少ない
3.『十割そばはボソボソで食べにくくてあまり好きじゃない』とおっしゃる方が多く、だまされたと思って、試食を召し上がってもらうと、『他で食べた十割そばと違う!クセがなくて切れないしツルツルしていて食べやすい。お蕎麦って甘いのね。これがほのかな香りなのね。美味しいわ〜』と新鮮なそば粉で作った十割そばの良さを知っていただき、ファンになってくれる方が結構いる。
4.『お蕎麦って黒いほどそば粉が多いと思っていたわ〜!』『国内産ってそんなに少ないの〜?』と驚く方が多い。
5.やっぱり、『お蕎麦は3立てでしょ!○○産がうまいよ!』と豪語する方が多い。→私達、そば農家が知っているお蕎麦と、世の中で出回っているお蕎麦は違うんだなぁ!と気づきました。
そこで、どうして違いが生まれるのか?
私自身の味覚と体験で学んできたことから考察してみました。
1.蕎麦は、日本以外でも世界各地で栽培されていて、食べ方は違っても蕎麦の味に慣れている方が多い。
日本独自の麺のタイプは珍しく、また音を立てて啜る行為や、お箸を使うなど、日本の代表的な和食として取り上げられることも多いため、認知度が高く、海外でも日本蕎麦屋が多いことも考えると世界中の人々から愛されていることがわかる。
2.本当においしいお蕎麦は、【食べてから、後追いで香りが口の中にもわもわ〜っと広がります。】
お蕎麦を直接、鼻で嗅いで感じる強烈な匂いは、人間でいえば【加齢臭】のようなもので雑味のお蕎麦であることが多いです。(玄蕎麦の殻が入っていたり、酸化した蕎麦粉は強い匂いとともに、苦みが走ります。)
新鮮な蕎麦粉を使ったお蕎麦は、【エキストラバージンオリーブオイル】と同じように、純粋で酸化していない、風味に悪臭などの欠陥がひとつもないことの香りで、口当たりよく、優しくほんのり香ります。
そして、味も雑味が無くて、口の中全体でお蕎麦本来の自然の甘さが充満します。
3.普通は、蕎麦農家さんがいて、製粉会社さんがいて、蕎麦屋さんがいます。すべての工程が別々の会社なのが世の中のほとんどのおそば屋さんの仕組みです。
☆農家さんは、JA農産物検査を受けるため、収穫後に水分調整を行う際、JA指定の水分量まで下げて調整します。(これによって、カビや腐敗が無くなり、次の収穫まで安全に保管ができます。)
ただ、この時点で、蕎麦本来の水分量が下がってしまう、この先の工程でもっと下がっていくのが想像つきます。また、農家さんの中には、色々な方がいて、農薬を使用している人もいます。身体にいいものイコール蕎麦がこの時点で消滅です。
そして、仕入れる側は一つ一つチェックすることもできません。
☆製粉会社さんは、農家さんから仕入れたり、契約栽培や自分で栽培しているところもあります。
私の家も昔は、ある製粉会社さんからそば粉を仕入れていました。そのときは、【十割そばが打てたり、打てなかったり・・・】散々でした。その製粉会社さんに尋ねると、『季節が悪いから、しょうがないですよ』など胡麻化されてきました。
実際、自分たちで、蕎麦の栽培、自社で脱皮、製粉、製麺したら、1年通して、十割そばが切れなかったのです!!不思議ですね、あれだけ打てないものとばかり刷り込まれてきたのに・・・
【答えは、単純でした!】
本当に新鮮で身体に優しくて美味しいお蕎麦は自ら作るしか手に入らないということ!
自社で作るメリットは、手間暇はかかりますが、自分の希望通りの最高ランクの玄蕎麦を作ることができます。
食べる方の健康を考えて、農薬を使わず、有機肥料を使い、土壌を柔らかくして良くすれば、実りが増え、玄蕎麦の容積重もしっかり満たされ、等級検査にて、1等・2等などになります。
お肉で例えるならば、A5ランクのようなものです。玄蕎麦の容積重が満たされると、そばのでんぷん質、たんぱく質がバランス良くなります。これが等級入りの玄蕎麦の特徴です。
等級外の玄蕎麦は、容積重が満たされていないため、からっぽのようなものや、バランスが悪くでんぷん質が少なかったり、たんぱく質も欠けていたりと等級入りの玄蕎麦とは全く違ってきます。
現状、蕎麦に等級があるということを知っている人は少ないです。
私は、等級入りの殻剥きたての1番粉入りの挽ぐるみのなまの新鮮なそば粉というのがあって、その粉を使えば十割そばでも切れないんだよということを今後も伝え続けたいと思っています。
本当の蕎麦の味がわかれば、今後お蕎麦を食べるときのものさしになってくれると思います。
お蕎麦が好きならば、身体に優しい酸化していない蕎麦を食べ続けて欲しいなと勝手ながらに思っています。
自分で作ったら、コストはかかるが有機肥料やサブローラーなどを用いることで、等級入りの質の良い原料が出来ること。玄蕎麦収穫後の水分調整を十割そばを打つのに適している、水分量に調整できる。
自社の脱皮機で、蕎麦を打つ直前に殻をむくことが出来る。酸化していない水分量の多いそば粉を使用できる。むき実はそのまま保存しておくと味や風味が落ち、色も劣化します。
石臼で、等級入りの殻剥きたての1番粉入りの挽きぐるみのなまの新鮮なそば粉が使える。でんぷん質がぷりぷりの口当たりでたんぱく質はしっかり結合の作用を果たし、くっつきます。
1番粉は、高級な値段で販売し、周りの余ったそば粉をただのそば粉として、販売している製粉会社も中にはあると思います。
私たち蕎麦農家が知っている、十割そばは切れないですし、文部科学省で開催した子供たちの体験学習でも子供たちが上手に打っていました。
自社で殻を剥きたて1番粉入りの挽ぐるみのなまの新鮮なそば粉を使うことで1年中新鮮な生のそば粉が使えますが、さらに新鮮な生のそば粉を使い、お客様に美味しいお蕎麦を食べてもらいたいという思いから、神奈川県秦野市の地形(盆地の寒暖の差、火山灰の土壌)を上手に活用し、同じ畑での年に3回収穫の3期作を行っています。秦野市は、蕎麦に大事な水も環境省の総選挙で日本一おいしい名水にも選ばれています。4〜11月までだいたい約60日間ずつの周期で3回行っています。
毎回、土壌にしっかり栄養を与えたり、サブローラーで土を天地返ししたりして柔らかくするなど、ほかにも色々試行錯誤で工夫しながら、去年からは1等級に入る比重のしっかりある玄蕎麦を作れています。
私たち蕎麦農家が知っている本来の蕎麦100%(十割そば)というものは、色は明るく、甘みと後からほんのり優しい香りがして、雑味が全くないです。歯ごたえもしっかりあって、噛めば噛むほどお蕎麦の味がじわぁ〜っと口の中、歯の裏側に広がります。のどごしもよくて、ぷりぷりつるつるしています。
4.新鮮ななまの蕎麦粉は緑色!身体に優しくて、新鮮で美味しいのはきれいな色をしています。
殻を剥いたむき実は、空気に触れるとどんどん酸化でくすんで黒くなってきます。また、殻を入れているというところもあります。蕎麦は30%入っていれば蕎麦という名称が使えます。その際、何年前の玄蕎麦を使おうが、玄蕎麦のどの部分を使おうが決まっていませんので、身体に優しくて良いものを作りたいという会社であれば、捨ててしまう部分なども入れて作っているお蕎麦屋さんも中にはあると思います。
黒いほうが蕎麦らしいと思っている人が多いからと、あえて雑菌数の多い殻を練りこんだり、殻と実の間にあるお米でいったら糠のような部分をあえて練りこんでいる会社もあると聞きます。
こういうお蕎麦は、鼻で嗅いでもわかるぐらい一見強い香りがありますが、雑味があり、苦いです。
何度も言いますが、本当に新鮮で美味しいお蕎麦は、全く雑味がなく、ピュアなお味で、鼻で嗅いでもピンときません。
食べた後、口の中で後から鼻に抜けるようにほのかに香ってきます。
国内産の蕎麦の自給率は約20%です。
ほとんど外国産なのが分かりますね。郷土料理の蕎麦だからてっきり国産だろうと思っていた方達は驚かれてます。国内産の玄蕎麦は、作り手も少なくなっています。また、台風などの被害にもあいやすく、昨今玄蕎麦の価格も上がっています。
5.世間一般では、『蕎麦は3立て』が一番うまい!!と言われていますが、私たち蕎麦農家からすると、『蕎麦は殻剥き立てを含め4立てもしくは、採れ立てからはじまり、唐箕仕立て、石抜き仕立て、磨き立て、選別仕立て、殻剥き立て、石臼挽き立て、打ち立て、茹で立ての9立てが一番おいしいんです!』
あと、『○○産が良い』というのも、一概にひとまとめにはできないと思います。確かに郷土ならではの特徴もあると思いますが、美味しい状態でお客様に届けるには、いかに、玄蕎麦の保管方法と殻を剥くタイミングが一番の決め手になってきます。(この部分を蕎麦屋さんだけで全て行えるようになると、美味しい新鮮な蕎麦本来の味が楽しめる蕎麦がもっと増えると思います。)
また、昔は産地だけしか蕎麦は食べれなかったのではと思います。今は、どこでも食べれる時代。
果たして、新鮮なのかと疑いたくなります。
デパート催事で経験し、感じたことがいっぱいありました。
お蕎麦を好きな人が本当に多いんです。ただ、話を聞いてると新鮮なそば粉を使った本来のお蕎麦を食べていないということ。どんなに身体に良いからといっぱいお蕎麦を食べても、酸化したそば粉を使ったお蕎麦を食べていても身体には優しくないし、良くないと思ったからです。せっかくお蕎麦が好きと言っている人たちを裏切ってはいけないと思いました。
また、小さい子供の場合、新鮮なそば粉を使った十割そばやそばがきを食べてもらうと美味しい!美味しい!と食べる子と、味がしないという子がいるんです!これにも驚きました。
子供の味覚は正しい!などと言われていますが、味の濃いものを食べ続けている子が増え、そんな小さいころに味覚は決まってしまうんだ!と目の前の現実にびっくりしましたし、これでは、いけない!と思いました。
それには、今後赤ちゃんを産み育てるまず母胎になる人たちに、しっかりとした栄養のある蕎麦本来の味のある新鮮な蕎麦を食べてもらいたいと思いました。
なぜならば、栄養たっぷりの母胎で育った赤ちゃんは、素材の味が分かり、病気にもなりにくいのではと思うようになりました。いろんなお客様(お母さんになった方とそのお子様)を見てきて、やっぱり栄養しっかり身体に優しい新鮮なものを選んで食べてきた人のお子様は元気で健康にスクスク育っている子が多いと感じました。
良いものが人から人へ連鎖することで、健康な人が多い日本になるのでは?!と思うようになりました。
日本の未来のために、母胎になるお母さん、生まれてきた子供が健康になったら、周りにいるお父さんや、大人の方々も健康になって欲しいですね!そのためには、新鮮な蕎麦は身体に優しいんだよということを知っていただいて、蕎麦づくりに適した日本で自ら蕎麦を作って、食べてもらえれば自給率も増えると思います。このような環境ができたら、身体にも優しい新鮮な食べ物が食べれるし、身体をしっかり動かすことで病気にもなりにくくなるのではと考えました。
ただ蕎麦を食べることだけに意識するのではなく、健康につながる本当の蕎麦はどういうものか、と伝えて・考えてもらい、意識しながらお蕎麦本来の味のある新鮮な蕎麦を好きになってもらって、食べ続けてもらえたら、日本国民の皆さんの健康に少しはつながるのではと思っています。
赤ちゃん、子供、大人のすべての人にお蕎麦本来の味のある新鮮な蕎麦を伝えることで、
『健康寿命な国・日本!蕎麦でみんな元気に!』という目標に近づけるかなと思っています。
企業の皆様にお伝えしたいのは、日本で蕎麦に関わっているのならば、お互いに手を組んで
売上優先!利益重視!より、本当に健康につながるフレッシュな蕎麦を日本の皆さんに伝えていって、欲しいなと私の願いです。
みんなが一丸となれば、日本の蕎麦の可能性がさらに広がると思います。
蕎麦の将来が本当に楽しみです!
私も蕎麦農家の娘として感じたことを、真摯に一つ一つ伝え、日本の皆さんに喜んでもらえるようこれからも美味しい蕎麦づくりに取り組んで、日本の蕎麦の未来に協力したいと思っています。
世の中には、いろんなお蕎麦がでていて、どれもこだわりがあって良いと思います。ほかのお蕎麦を否定しているわけではありません。本当の江戸ソバも手繰るもの!噛まない!などとも言われています。
私が今回伝えたかったのは、蕎麦農家の娘が知っている、お蕎麦の話で、雑味のない新鮮なお蕎麦本来の味のある等級入りのお蕎麦が実際にあって、それが身体にとっても優しいんだよ!ということを日本の皆さんに知ってほしくて書かせていただきました。